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成功のポイントは、支援をどう広げるかー私の晴れフレ体験記

  • ITONAMI(イトナミ)代表 島田 舜介(倉敷市)
公開年
2019年8~9月
プロジェクト名
「47都道府県旅の終着、デニム兄弟がジーンズの街に拠点をつくる」
支援総額
1124万4000円

 私はITONAMIのブランド名で、瀬戸内デニム商品を企画・販売しています。活動拠点は「DENIM HOSTEL float(フロート)」という、倉敷市児島地区で開業したホステルです。必要資金を「晴れフレ」の第1号プロジェクトとして募り、目標の1千万円を越える1124万4000円を頂きました。私の晴れフレ利用経験が、クラウドファンディングに挑戦する方の参考になればうれしく思います。(取材・構成 山陽新聞社ビジネス開発局)

<島田さんの話のポイント>
  1. ①フロートは「デニムの魅力に触れる場」
  2. ②地域密着型サービスの晴れフレに共感
  3. ③動画活用して一人一人に支援のお願い
  4. ④着る側も巻き込んだ服作りを展開中

 フロートのオープンは、2019年9月です。私は当時、岡山市内を拠点に、兄の山脇耀平と「EVERY DENIM(エブリデニム)」を運営していました。イトナミの前身となるブランドで、デニム製品の企画と移動販売を通じ、瀬戸内エリアの繊維産業が持つ高い技術力を発信していました。移動販売だったのは、自前の店舗を持っていなかったからです。

 オープンのきっかけは、2018~19年に全国47都道府県をキャンピングカーで兄と巡ったことでした。農家や職人、工芸家…。ものづくりに携わる人たちと出会い、語らう中で実感したのは、仕事への情熱と地元愛、もてなしの心。旅を終えて、私たち兄弟はお客さまが「デニムの魅力に触れ、いやしと刺激を得る場をつくろう」と決意しました。

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フロートをバックに語る島田さん。視線の先には瀬戸内海が広がる

 フロートは、企業の保養所だった建物をリノベーションしました。宿泊室は、和室(定員4人)が三つ。室内は藍を基調色とし、ふすまにはデニムを張りました。室内からの眺めは抜群で、瀬戸大橋や四国を望むことができます。新型コロナウイルス問題が続く中ですが利用は比較的好調で、週末はしばしば満室になります。お客さまの多くは首都圏からの若い女性。倉敷・美観地区を訪ねた後にチェックインし、宿泊後は香川県・直島方面へアート鑑賞に向かうようです。このほか、商品のショールームも備えており、買い求める方もいます。

 今構想しているのは、地元にあるデニム工場の見学ツアーです。誇りを持った職人さんの姿と、大きな音を響かせる機械の迫力ある動きを目の当たりにすると、はき慣れたジーンズへの親しみが深まり、作り手との「距離」も近付くはず。新型コロナウイルス禍が落ち着いたら、ぜひ実現させようと思っています。


 私のクラウドファンディング挑戦は、フロートの開業資金を募った時が5回目でした。初回は2015年で、この年創業のエブリデニムが初めて企画した「黒ベンガラ染めジーンズ」の販売が目的で、目標の2倍以上となる約210万円を得ました。新作デニム製品の販売やイベント開催費、移動販売に使うキャンピングカーの購入…。その後も、ほぼ年1回のペースでクラウドファンディングにチャレンジし、全て成功しました。

 現役大学生の兄弟が創業したエブリデニムは、当初は店舗や流通網を持たず、さらには実績もない状態でした。それだけに、インターネット経由でお金を頂き、商品を返礼品(リターン)として提供するクラウドファンディングは、魅力的な仕組みと感じました。うれしいことに回数を重ねることで、私たちを応援してくださる方も増えています。

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フロートの宿泊部屋は、デニムにちなみ藍が基調色

 晴れフレを利用しようと決めたのは、晴れフレが「岡山に根差した地域密着型サービス」を掲げていたからです。私は兵庫県の出身で、大学進学で岡山にやって来ました。コンパクトな街並みに、顔の見える人間関係…。岡山を知るにつれ「まち」への関心が深まりました。フロートをつくろうと決めたのは、岡山に腰をすえて地域を盛り上げたいと考えたことも大きな理由です。それだけに、晴れフレの理念に、大変共感しました。


 晴れフレでのクラウドファンディング挑戦ですが、支援募集の期間中は目標の1千万円に到達するかどうか大変不安でした。晴れフレは、目標達成にかかわらず支援金を受け取ることのできる「オール・イン」型ではなく、目標額に達して初めて支援金を受け取ることができる「オール・オア・ナッシング」型だからです。そこで、私の体験を通じ、支援を得る上でのポイントをお伝えしたいと思います。

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フロートからは、瀬戸大橋を望むことができる

 クラウドファンディングを成功させるには、支援の輪を広げるのが大切です。まずは、付き合いが深い友人・知人に、自分の成し遂げたい「プロジェクト」を一生懸命伝えましょう。事業を手掛けている方であれば、活動やイベント開催などを通じてファンを増やしておくとよいと思います。伝える上でのポイントは、プロジェクトを明確に発信すること。今の事業をなぜ立ち上げ、どのような道を経て、どこに向かうのか。こうした内容をストーリーにすれば、説得力が増します。
 (島田さんの晴れフレサイト=https://readyfor.jp/projects/everydenim

 私は晴れフレで挑戦した時、友人・知人ら約200人に、支援をお願いする動画を「LINE(ライン)」などの通話アプリで送りました。それも内容を一人一人変えて。手紙は頂いたらうれしく思いますが、そのことをヒントに私は、それぞれの方との思い出や近況を盛り込み1本30秒前後で編集しました。

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フロート内のショールーム。ジーンズやシャツを展示する

 文章で思いを伝える方法もありますが、文を「コピペ」したと思われるかもしれません。動画は、伝えたい人に直接語りかけるので、受け取った側の印象にしっかり残してもらえます。晴れフレを利用する方は、ぜひ参考にしてほしいと思います。

 晴れフレは岡山エリアに根差したサービスとはいえ、支援募集のプロジェクトはインターネットで全国に発信されます。それだけに、エリア外から支援を得る工夫も必要です。一例は返礼品。カフェ開業の資金を募るとして、返礼品がカフェで利用できるチケットならば、訪れる機会がない遠隔地の人の共感を得るのは難しくなります。しかし「カフェで提供する菓子」も加えると、お店のイメージを伝えることができ、関心を寄せやすくなると思います。


 エブリデニムは2020年、創業5年を機に「イトナミ」にブランド名を変えました。イトナミの理念は「意思あるものづくりを、波のように広げる」。服作りは、生産者の視点だけで行われがちです。私は、着る側も巻き込んだ商品作りを進めようと考えています。現在取り組んでいるのは、「FUKKOKU(復刻)」。不要のデニム製品を回収し、粉砕して糸を作り直すことで、全く新しい製品に再生させる試みです。賛同してくれた全国の仲間を経由し、使い古したジーンズやジャケットなどを送ってもらいました。2022年春の販売を予定しています。

 イトナミとなってからは、クラウドファンディングを行っていません。過去5回はいずれも、自分にとって大きな挑戦でした。次に行う時はやはり、大きなチャレンジを決意した時です。今はまだ、その途中といったところでしょうか。